歯磨きやうがいなど口内の清掃だけではなく、口腔内の機能回復や維持を目的としたトレーニングなど適切な口腔ケアを行い、口内の健康を維持することは全身の健康にもつながります。歯周病や虫歯だけでなく、誤嚥性肺炎や心疾患、糖尿病の悪化など全身の健康問題にもつながることから、口腔ケアを行うことは重要です。
今回はトータルライフケアでも実施している具体的な口腔ケアの手順やポイントを解説していきます。口腔ケアの重要性についてはこちらでも解説しているため、合わせてご覧ください。
口腔ケアとは
口腔ケアとは、歯や歯茎、舌、入れ歯など口内を清潔に保つことで、虫歯や歯周病などの口内トラブルを予防するケアのことです。また、単に歯を磨くだけでなく、口腔内の機能回復や維持、全身の健康維持にもつながる幅広い取り組みを指します。口腔ケアはこれらの器質的ケアと、咀嚼のトレーニングや舌を中心としたトレーニングなどの機能的ケアがあります。
健康を保つために必要な食事、会話をするためにも口腔ケアは欠かせません。
近年では、認知症の進行にも影響があることが判明し、国としても取り組みが強化されています。歯の健康の維持だけでなく、全身の病気を抑制できるような働きかけ(国民皆歯科検診)も検討されています。
また、口腔ケアと腸内フローラの関係はとても密接で、口腔内には善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種の細菌が存在し、そのバランスが乱れると歯周病菌が増加し、それらが血管や消化管に流れ込むことで腸内フローラのバランスを崩してしまい腸の粘膜バリア機能の低下を引き起こすことで、有害物質の侵入、感染症のリスクを高めることにつながります。
口腔ケアの手順
口腔ケアはセルフケアでも行われている歯磨きだけではなく、粘膜や舌の清掃まで行います。ていねいな口腔ケアを行うことで、口内を清潔に保ち、食事や会話の時間も楽しみながら過ごすことができるなど結果的に健康な生活につながることも期待できるでしょう。
今回は具体的な口腔ケアの清掃を行う際の手順をご紹介していきます。
口内のケアの準備をする
口腔ケアはまず、利用者さまの誤嚥を防ぐ体勢で行うことが大切です。座位で行う場合は顎を軽く引いた状態、ベッド上で行う場合はクッションやタオルで姿勢を安定させ、30~60度程度上半身を起こして顎を引いた姿勢が良いとされています。姿勢の維持が難しい方は、顔を横に向けるなど、唾液が喉に流れ込まないように工夫しながらケアを進めていきます。
また、口腔ケアを行う際は声掛けを行い、相手の同意を得た上で進めていくことが大切です。コミュニケーションを取りながら進めていくことで、安心してケアを受けていただけるでしょう。
口腔内の状態を観察する
口腔ケアに必要な道具は事前に用意しておきます。
その上で、ご利用者さまに口を開けていただき、まずは口腔内の汚れ具合や創損の有無などを確認します。一般的に自身で確認することの多い歯や歯茎だけではなく、口唇や舌、粘膜の状態まで詳細に確認し、異常がないか判断します。前回から変化があった箇所には特に注意が必要です。
入れ歯を使用されている場合は、入れ歯の状態も確認し、この段階でははずして別途洗浄も行います。
口腔を加湿する
口腔ケアの清掃を行う前は、ご利用者さまにうがいをして口をゆすいでいただいたり、水を含んだスポンジを使用して加湿する必要があります。特に高齢者の方の場合は、乾燥した状態でケアを行うと口内の粘膜を傷つけてしまう可能性があるため、必ず湿っていることを確認してから進めることが大切です。
歯を磨く
湿らせた歯ブラシに歯磨き粉をつけ、歯の表面、裏側、噛み合わせ面をていねいに磨いていきます。奥の歯から手前にかけて順番に磨いていく中、力を入れすぎることなく、磨き残しがないように満遍なく磨いていくことが大切です。
歯ブラシでは磨きにくい歯と歯の間や、歯周ポケットは、歯間ブラシやデンタルフロスなどを使って清掃を行います。
ご自身で歯磨きを行うことができる方へ、歯磨きのポイントやアドバイスをお伝えすることもあります。
粘膜・舌のケア
歯磨きの後は一度、口内に溜まった唾液と汚れを吐き出していただきます。
その後、粘膜や舌のケアでは、口腔用スポンジやガーゼで歯ぐき、上あご、下あごなど口内粘膜部分を優しく拭き取っていきます。粘膜の汚れは弱い力でも落とせるため、強い力を入れて粘膜を傷つけないようにすることがポイントです。
舌は舌ブラシなどを使用して汚れを除去していきます。粘膜や舌にこびりついた汚れがどうしても落ちない場合はジェルなどを使用して、清掃を実施します。
口腔内の洗浄・加湿
清掃が終了した後は、清掃の際に取れた口腔内の汚れを洗い流すため、うがいをしていただきます。うがいが難しい場合は口内用のスポンジを使用して拭き取るなど、清掃後のケアも口腔ケアにおいては欠かせません。
口内の乾燥は感染症に繋がりやすくなるため、清掃後の乾燥が気になる場合は、保湿剤を使用します。保湿剤もさまざまな種類があるため、ご利用者さまや口腔内の状態や好みに合ったものを選ぶことで、不快感なく使用していただけます。
口腔ケアの前後は水分補給を行うことも大切です。
口のトレーニング
口腔ケアでは上記の清掃に加え、日頃から口腔機能を健康に保つためのトレーニングも行います。
日常的な動作として口を開いたり、舌を使った体操をすることで、口の開き方や表情も豊かになっていくことが期待できるでしょう。
トータルライフケアでは吹き戻しなどを使って肺活量を鍛えるトレーニングも行っています。吹き戻しのトレーニングは少しずつご自身のペースで繰り返すことで、最初はできなかった方も、徐々に肺活量が増え吹き戻しができるようになってきます。
肺活量を高めることで、心肺機能や体力が向上するだけでなく、声量が大きくなることで会話もしやすくなり、職員や他のご利用者さまとのコミュニケーションが活発になる方もいらっしゃいます。
口腔ケアを行う際のポイント
口腔ケアを行う際に最も大切なことは、本人の気持ちを尊重することです。しっかりとコミュニケーションを取り、ご本人に痛みがないか、嫌なことはないか聞きながら進めていく必要があります。口腔内に痛みや出血がある場合は無理にケアを行わず、専門的なケアが必要な場合は、歯科医に相談しながら進めていきます。
また、ケアを行う際は口腔内の乾燥ケアを十分に行い、休憩や水分補給を行うことも必要です。その他にも、口腔ケアは一度だけではないため、ご家庭でのケア方法もお伝えすることで継続的に実践していくことも大切にしています。
まとめ
今回は具体的な口腔ケアの手順やポイントを解説してきました。
口腔ケアでは一つひとつの工程をていねいに行うことで、口内の汚れを取り除き、健康を保つことができます。食事の味を楽しんでいただいたり、会話をする時間を楽しんでいただくためには口腔ケアが欠かせません。
今後もトータルライフケアでは、科学的な根拠をもとに看護、リハビリテーション、介護の質の向上に努めていきます。
コメント